QRDについて / QRD

QRD

わたしたちが聴く音は、ほとんどの場合、音を発するソース(音源)から直接届く音と、壁などの反射によって間接的に耳に届く音との組み合わせとなっています。たとえば、室内音響とは、「直接音」と、壁面、天井、床面からの「反射音」とが合成されることで、室内音響の質を決定づけることとなります。

音響を整えると言うことは、このような音の進行速度に影響をおよぼす反射を処理して、最終的にわたしたちが聴く音質を美しく自然にすることが重要な課題となるのです。

壁や天井や床、あるいは家具の表面に当たった音は、伝達、吸音、または反射されるか、のどれかとなります。その度合いは表面材質の音響特性によって変わります。

反射音は広い平面による鏡面反射と、拡散面によって散らばる場合では、反射音の性質や強さは異なってきます。このように、音が空間を通り反射する場合には、「鏡面反射」、「拡散」、そして「吸収」という三つの異なった性質の表面によって、耳に届く音が違ってきます。

過去100年にわたって、雑音を制御するために、音を吸収する方法や材質が進化してきました。しかし、建築学的な音響では、吸音材と拡散材が優れた音響条件を創る役割を担う物として注目されてきました。特に近年、音を散らし、反射による害を防ぐ科学的なアプローチが多く試みられてきました。ここ30年では、設計方法、最適組み合わせ方法、音響予測、測定、拡散面の数量的な処理、などが科学的な音響改善の主要部分と理解され、注目されるようになってきました。

音を処理するという近代的な音響アプローチが、多くの音楽創造空間、例えば、コンサートホールや音楽スタジオのミキシングルームなどに応用されています。言うまでもなく、音響空間は音楽演奏、再生、演説、講演に大きな影響をおよぼします。

わたしたちは室内で音楽再生に最適な空間を創る方法を考えました。理想は、音楽演奏を記録し、スピーカーによって演奏家の意図した音楽を再現することです。(もちろん、記録する技術者も芸術家でありその人の感性によって作品が仕上げられます。原音再生とはこの点が異なります。) コンサートホール、レコーディングスタジオ、シネマ劇場、オペラハウス、演奏家練習室、講堂、会議室など、多彩な用途で演奏家、講演者が気持ちよく演奏、発表出来るように、多くの音響デザイナーによるアプローチを手本に、私達はより楽しく、深く音楽を聴く環境作りを提案します。基本はしっかりとした壁面と喧騒音を遮断する床ですが、床は与件として、ここでは空間処理の面から進めていきます。鏡面反射による害を無くし、位相を整えて、演奏体験を再現する、という方法です。

ルームデザインについて

リスニングルームはニュートラルな音響特性が理想です。

ニュートラルなリスニングルームの一例: サイド(デジウェイブ) 正面(BAD ディフラクタル) 天井(スカイライン)

反射によって直接音に比較して遅れてくる音(3角形の2辺を通るので、距離が長くなり、従って時間遅延が起きる)が直接音と干渉して波形変換が起り、垂直、水平方向の強い反射による影響でコームフィルター効果(櫛:くし型フィルター効果)が発生し、到達信号の上に生成されるべき本来の空間情報がマスキングされます。結果として、垂直、水平方向における音像の乱れとなってしまいます。

良い部屋=正確な音の部屋という関係は重要です。多くの設計者たちは無響室によって反射による音の干渉を避けてきました。ところが、それでは居心地は良くありません。音響設計で有名なN.グラント氏は、意図的に部屋の前方を無響状態にして、空間的定位や構成を正確に把握できるようにし、その後で部屋の後壁と側壁に反射して生じる高周波数帯域の拡散した音場を作り出し、ふたつの耳における非対称性を増加、包まれるような感覚が増強された空間の印象を得られるような設計を提供して評価を得ました。多くのスタジオ・コントロールルームやリスニングルームなどでその理論を実践し、アーティストやエンジニアによって音の良い環境を作り出したのです。

リスニングルームにその原理を応用しない手はありません。その神髄は、音のエネルギーを残したまま、反射による干渉を排除して、RFZ(Reflection Free Zone)=反射のない空間を作ることです。RFZでは捕らえられた音楽情報の空間的配列を広い領域に渡って、正確に耳で聴き取ることが出来ます。スピーカー境界干渉作用が最小限に抑えられることによって、正確な音楽情景が再現されるのです。

RFZ 例:リアルワールドスタジオのコントロールルーム( Harris Grant associates)

RFZでは、反射した拡散エネルギーがリスニングポジションに到達する前に一次の時間遅延が発生し、その後に拡散エネルギーがスピーカーからの次の直接音と再結合されてしまいます。この拡散エネルギーは、間接的で位相の整えられていないエネルギー形態であるため、後壁や側壁をずらすことで到達時間を調整すればリスナーの求める空間を作り出せるのです。

室内に残された反射面と拡散性のある要素とを組み合わせて、拡散パネルへの複合経路を作り、指向性を持った音が抑えられ、理想的密度で均整の取れた綺麗な減衰構造をリスニングルーム内に作り出すことが出来ます。その結果、空間的な印象が強くなり、リスナーが音楽に包み込まれるような感覚が産み出されます。

方法論

良い音をステレオ装置から得るには、ステレオ音像、周波数特性、リスナーを包むような音響空間を作ることが重要です。その空間はRFZと名付けられ、リスナーはストレスなく音楽を楽しめるのです。それには、QRDディフューザーとアブフューザー、スカイラインなどの組み合わせが必須となります。音像をはっきり認識するには1kHzから18kHzまでの周波数が重要な帯域ということがわかっています。直接音と水平反射音を制御するにはスピーカー後壁面と側壁面の角度や張り出し具合を調整して、リスニングポイントでRFZを作ることが有効な方法です。

スピーカーの位置や向きを調整することで、リスニングポジションで良い音になるように仕上げることを思い出してください。それを少し高いレベルで達成するには、側壁面を吸音に、後壁面を拡散面にすることがアプローチのひとつです。側壁の反射を防ぐには、側壁に鏡を置いてリスニングポジションから鏡にスピーカーが映る位置を確認し、そこを吸音材でカバーするという方法が最も簡単です。同様に、リスナーの後壁面にエネルギーを残すという観点からディフューザーで覆うことも忘れてはなりません。拡散壁によって反射はコントロールされ、直接音との干渉は大幅に減少します。

QRD ディフューザー

一次元方式のRPG(Reflection Phase Grating)パネルは連続した溝で構成され、溝は格子によって同じ幅に分離されていますが、深さが違います。今では二次平方根数列が効果的であることが判明し、QRD製品は全てこの数列に基づいて設計されています。ディフューザーはどの角度から音が入ってきても半円状に拡がる性質を持っています。従って、入射音のエネルギーを各方向に拡散する、入射エネルギーも各方向に拡散されるので、エネルギーの増幅はありませんから、拡散波は発信音のエネルギーより大幅に低くなります。すなわち、音のエネルギーはリスナーに届かずに、減衰するまでの時間では存在していることになります。周波数に関係なく全体に半円状に拡散されるので、スピーカーからの直接音場には有害な干渉作用が起こる心配がありません。

QRD ディフラクタルタル

ディフューザーのデザインをそのまま縮小して、反射面を細かいディフューザーでカバーしたパネルがディフラクタルです。ディフューザーより高域の拡散効果が達成でき、音楽鑑賞には理想的な拡散材です。

QRD アブフューザー

QRD アブフューザーも同じ理論をベースに、格子で分離された溝がありますが、吸音を主体にした表面材料で出来ています。重要な点は、100Hzまで均等にほぼ80%の吸音が発信音の入射角に関係なく行われることが測定によって確認されている点です。100Hz以下の吸音率は周波数が低くなるにつれて徐々に下がっていきます。フラットな吸音パネルは400Hz以下の低音には効果なく、ヘルムホルツ吸音板と併用して100Hzもしくはそれ以下の吸音を行わざるを得ませんが、QRDアブフューザーは一枚で広帯域を吸音する有効な吸音材です。

QRD スカイライン

QRD スカイラインは、天井に配置してスピーカーから天井へ放射された音をリスナーに届かないように半球状に拡散するパネルです。スタジオによっては壁面に多数取り付けているところもあります。2.4m以下の天井高が一般的な日本の部屋では、スカイラインによって干渉波の発生を防ぐことで、天井高が更に高く解放的な空間になったように錯覚します。

QRD BAD/DigiWave

理論的には他のQRD製品と同じですが、パネルに二進法によって吸音と反射の面を作ったものです。使用方法は、アブフューザーと同じように、側壁面やリスナーの正面(スピーカーの後壁面)に配置し、一次反射による直接音への干渉を防ぐものです。Digi Waveはその名の通り、BADパネルをウェーブ状に変形させたもので、より多方面からの音波を処理出来ます。

QRD製品を実際にリスニングルームに応用していく

平面に当たる直接音は鏡面で反射され、おなじ程度の強さがある音波に干渉されます。反射音はリスナーに届くまでの到達時間の遅延が生じるため、一部の音域は反射波によって打ち消されリスナーの感覚を惑わします。それが、RFZをリスニングルームで造ることの重要なポイントです。RFZをリスニングルームに作るには、試行しながら、段階を経て仕上げていくこともお薦め出来ます。ある公共施設の施工現場では天井面にスカイラインを設置したところ、鋸(のこぎり)の音が素直な音になって作業員が効果に驚いたという報告も届いています。その段階を図解します。

リスニングルームは水平の天井、直方体の部屋が一般的でしょう。側壁、前後壁面の処理に加えて、天井面の処理は、スカイラインによる拡散で、エネルギーを保持したまま、直接音を一次反射音による干渉を防ぎます。吸音、拡散処理に於いて大切な点は、音域にかかわらず均等に処理できる材料を使用することです。QRDディフューザーは23cmの奥行きならば300Hzから8kHzまでほぼ均等に拡散します。ピーター・ガブリエル氏が所有するスタジオでは徹底していて、奥行き2.25メートルものディフューザーをリスナーの後に作り、40Hzまでの低音を拡散しているほどです。それほどまでに、彼は拡散効果を重要視していました。

このようにQRD製品は測定による検証、音楽大学を含む音楽産業での実績、ご使用のユーザーによって幅広く支持を受けている優れた音響パネルなのです。

近代音響設計は、室内に存在するエネルギーはできる限り有効に利用する、という考え方です。そのために、幾何学的なRFZの使用、後壁ディフューザーからの反射成分を時間的な統一を与えずに跳ね返す、即ち拡散することがポイントになります。録音スタジオのコントロールルームでは、この方法によってRFZを作ると、録音エンジニアの従来の主観的な音量レベルを変えずにモニターの入力パワーを下げられるために、ヘッドルームを増やすことが可能になったといわれています。ダイナミックレンジが拡大し、低レベルの音圧でモニターをドライブすることが可能になり、歪が減って耳の疲労を減らすという効果も確認されています。また、吸音だけに頼らないので、高域周波数の減衰時間が減少しませんから、低域周波数の比較的長い減衰時間の影響を和らげ、長時間の作業も苦にならない環境だ、との報告も受けました。

このように、音楽ミクサーたちの高い評価によりQRDシステムは、リスニングルームを始めとして多くの場面に応用されています。カーネギーホール、ボストンオペラハウス、ジュリアード音楽院、BBCスタジオ、リアルワールドスタジオ、ヒットファクトリーNY、スターストラックスタジオ、スポティファイ・マテオスタジオ、劇団四季オーケストラピット、などの演奏会場やスタジオ、プリンストン大学マコッシュホール、ディユークエリントン芸術大学、レストラン ノブ(ワシントンDC)、ポートランド日本庭園、その他多くの会議室や講堂などでも使用されているのです。

Back to Top